「インテリアデザイナー」【1】「インテリアデザイナー」そういう職業の人がいることは知っていたが、実際に会うとは思ってもみなかった。 会社で、机や椅子などの備品を入れ替えることになった。親会社から分裂して2年目だったけど、業績がよかったんだろうな。年商100億円とか言ってたから。 その机の配置などのために、東京からインテリアデザイナーが来たらしい。もちろん、会社が依頼したということだろうな。 俺は、配置換えの日に、千葉県のほうに出張で行ってたんで、古い机を出して新しい机を入れるという作業から免れていた。夕方、会社に戻ってみると、まだ、片付いてなくて、混乱状態だった。机などは、だいたい収まったようだけど、配線などはまだで、俺の机の上にまとめて置かれていた。 机の上の配線の塊を見て思った。 「うどんみたいだなぁ。まずそうだけど…」 【2】 そのうどんのようなコードの塊を、立ったまま呆然と見ていると、 「このテーブルは、ここの置くといいですね」と聞きなれない女性の声が聞こえた。 テーブルの向こうには、脇の髪をスプリングのように巻いた女性が、俺をじっと見ていた。 「それは、俺に言ってるんですか?」 そう言うと、すかさず丸顔の課長が 「ヤマザキ!その人とけんかするなよ。今日は、外部から来てもらった人なんだから」 総務の女の子も 「ヤマザキさん、またなにかやったんですか。よりにもよって、こんな忙しい時に」 俺は、危険人物か。 巻き髪の女性が 「けんかなんてなさるんですか。そういう風には見えませんけど」 やわらかい笑顔だ。 「けんかは、なさりませんよ。めったに…」 【3】 巻き髪の女性は 「申し遅れました。私こういう者です」 と名刺を差し出した。 名刺の肩書は「インテリアデザイナー」… 「すごいですね。カタカナ職業だ。しかも肩書が2行になってる」 「そんなにたいした者じゃないですけど」 どうやら、事務所の模様替えのために呼ばれたらしい。それで、机をここに置くといいとかアドバイスしていたのか。それも「インテリアデザイナー」の仕事か。 「ええと、住所は東京ですね。わざわざ都会からお越しいただいて、ご苦労様です」 「うーん。私が住んでいるところは、そんなに都会じゃないですけどね」 とちょっと小首を傾げながら、年甲斐もなくかわいく言っている。 丸顔の課長が遠くから声をかけた。 「おまえたち、結婚しろ」 【4】 なんと言えばよかったのだろう。いきなり、初対面の人と結婚しろと言われても… 「じゃあ、課長、仲人お願いします」のほうがよかっただろうか。 「そうですか。じゃあ、新婚旅行は、鬼怒川温泉にしましょうか」 「まあ、新鮮!」 インテリアデザイナーは、助手の子にも 「ねえ、新鮮じゃない。そうでしょう」 と言っている。助手の女の子は、上司の言うことでもあるので、「うん、うん」と首を縦に振っている。 インテリアデザイナーは、こちらに顔を向けた。それは、俺には、蛇が首を持ち上げてこちらを見ているように感じた。 この話の進展はない。事務所の整理でがたがたしているときに、軽い冗談を言って和んだだけという終わり方だった。 (終) 《 現場監督時代目次へ 》 《 目次へ 》 《 HOME 》 ジャンル別一覧
人気のクチコミテーマ
|